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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2989号 判決

原告 小林弘美

〈ほか二名〉

右三名訴訟代理人弁護士 吉田豊

被告 日新梱包運輸株式会社

〈ほか三名〉

右訴訟代理人弁護士 堀田勝二

〈ほか二名〉

主文

1、被告らは各自、原告小林弘美に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、同小林弘に対し金七四五、一四三円、同小林昭子に対し、金一〇〇、〇〇〇円およびこれらの金員のうち原告小林弘美、同小林昭子分の全部および同小林弘分のうちの金六六〇、九九三円に対して被告日新梱包運輸株式会社、同日野隆正は昭和四〇年四月二二日から、被告株式会社天野材木店は同月二三日から、原告小林弘分のうちその余の金員に対して被告日新梱包運輸株式会社、同株式会社天野材木店、同日野隆正は同年五月一日から、被告江村信浩は右各金員に対して同年七月一五日から、各完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払え。

2、原告らのその余の請求を棄却する。

3、訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告らの負担とする。

4、この判決は原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一、当事者の求める裁判

一、原告ら。「被告らは各自、原告小林弘美に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円、原告小林弘に対し金二、四八八、九九七円、原告小林昭子に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円および右各金員に対する訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決ならびに仮執行の宣言。

二、被告ら。「原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告らの負担とする。」との判決。

第二、原告らの請求原因

一、事故の発生

昭和三九年一一月一九日午后一時三五分頃、東京都豊島区巣鴨一丁目六九番地先の、駕籠町方面から国電巣鴨駅方面に至る道路と中仙道方面から国電駒込駅方面に至る道路とが交る交差点内において、駕籠町方面から同交差点に差しかかつた被告江村信浩(以下被告江村と略称。)の運転する普通貨物自動車練一あ一六七号(以下被告車甲と略称。)と、中仙道方面から同交差点に差しかかった被告日野隆正の運転する自動三輪貨物自動車練六す一、五一一号(以下被告車乙と略称)とが接触し、そのため被告車甲は進路右前方に暴走して、同交差点から巣鴨駅方面に向う道路上の右側端を同駅方向に向け歩行中であった原告小林弘美(以下原告弘美と略称。)およびこれに付添っていた訴外近藤春江(以下訴外近藤と略称)に背後から衝突して転倒させ、このため訴外近藤は死亡し、原告弘美は後記のとおり傷害を負った。(以下この事故を本件事故という。)

二、被告会社らの責任

被告日新梱包運輸株式会社(以下被告日新梱包と略称。)は被告車甲を所有してこれを自己のために運行の用に供していたもの、被告株式会社天野材木店(以下被告天野材木店と略称。)は被告車乙を所有してこれを自己のために運行の用に供していたものであるから、右被告らは各自、これら被告車の運行によって生じた本件事故に基く後記損害を賠償する責任がある。

三、被告江村、同日野の責任

被告江村、同日野は前記のとおりそれぞれ被告車甲、同乙を運転して前記交差点に差しかかったのであるが、同交差点は交通整理の行なわれていないところであり、駕籠町方面および中仙道方面から同交差点に差しかかった場合にはいずれも交差点の左右の見通しがきかないのであり、しかも同交差点の駕籠町方面側(被告江村の進路)には一時停止の標識が掲示されていたのであるから、同交差点内に進入するに際して被告江村は交差点手前で一時停止し、少なくとも徐行して左右の交通の安全を確認すべきであるのに、一時停止および徐行を怠り、被告日野は交差点手前で徐行して左右の交通の安全を確認すべきであるのにこれを怠り、また前方注視の義務を怠り、両被告の右の各過失によって本件事故は惹起されたのである。従って右被告らは直接の加害者として各自、本件事故に基く後記損害を賠償する責任がある。

四、損害

(一)  原告弘美の治療等に要した費用(原告弘の損害)

原告弘美(当時満五才。)は本件事故により、顔面両手挫創歯牙破損脱落、歯槽骨骨折、頭部および全身打撲内出血、骨盤恥骨皹裂骨折の傷害を受けたため、事故後直ちに京北病院に入院し、昭和三九年一一月二一日からは同原告の父である原告小林弘(以下原告弘と略称。)の経営する小林医院に入院して治療を受け、原告弘は、昭和四〇年二月中までの間に同弘美の扶養義務者として左記(イ)ないし(チ)のとおりその治療費その他入院治療に伴う諸費用を支払い、また小林医院の入院費および原告弘の施した治療費等は左記(リ)の金額相当のものであるから、同原告は本件事故によりその合計金五二九、六四七円の損害を受けたというべきである。

(イ)林原医師治療費        金一五、二〇〇円

(ロ)晴和病院治療費        金 三、四〇〇円

(ハ)小倉医院治療費        金 五、〇〇〇円

(ニ)付添人費用          金三八、九〇〇円

(ホ)医師六名謝礼         金二〇、〇〇〇円

(ヘ)見舞客接待費         金一〇、〇〇〇円

(ト)見舞客返礼(対幼稚園)費用  金二六、〇五七円

(チ)滋養物購入および交通費等雑費 金二〇、〇〇〇円

(リ)小林医院入院治療費

昭和四〇年二月末日まで分       金三〇六、九四〇円

同年三月一日より四月末日まで分     金八四、一五〇円

合計                 金五二九、六四七円

(二)  原告弘美の後遺症につき今後要する費用(原告弘の損害)

原告弘美は右のとおり治療を受けたものの、なお顔面中央の上唇および鼻前庭部に挫創痕が残り、また乳歯を破損したため今後永久歯に奇形を生ずることは必至であり、これらは女子としての美容上将来整形手術を施す必要があり、さらに頭部を打撲したため継続的に脳波検査等を受ける必要がある。これら後遺症に関して今後要する費用は左記のとおりであって、原告弘は原告弘美の扶養義務者として将来これを支払う必要があるからその合計金五一五、八五〇円も本件事故に基く原告弘の損害というべきである。

(イ)上唇部等整形手術費 金二五〇、〇〇〇円

(ロ)歯牙整形手術費   金一五〇、〇〇〇円

(ハ)脳波検査費等    金一一五、八五〇円

合計             金五一五、八五〇円

(三)  原告弘の得べかりし利益の喪失

原告弘は本件事故の処理のため、昭和三九年一一月二〇日から六日間、自己の経営する小林医院を休業するのやむなきに至り、一日平均純利益金一五、〇〇〇円の六日分合計金九〇、〇〇〇円の得べかりし利益を失い、これも本件事故により同原告が蒙った損害である。

(四)  慰藉料(原告三名の損害)

原告弘美は前記傷害により昭和四〇年一月二五日まで入院生活を送り、その期間中骨盤恥骨皹裂骨折の治療のため腰部にギブスをはめて仰臥したままの生活を余儀なくされ、この間に抵抗力の低下から気管支炎を併発したり、頭部打撲およびカナマイシンの副作用のため聴力減退を招き、入院期間後も昭和四〇年四月末日まで治療を受けたが、後遺症として顔面中央の上口唇および鼻前庭部に挫創痕を残し、乳歯破損のため将来永久歯に奇形を生ずることが必至であり、骨盤等骨折の結果将来出産に支障を来たすおそれもあり、また頭部打撲による後遺症の発現の危険もある。よって原告弘美は本件事故により多大の精神的肉体的苦痛を受けまた将来受けるはずであり、この苦痛を金銭をもって償うため同原告が受けるべき慰藉料は金三、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

原告弘、同小林昭子(以下原告昭子という。)は同弘美の父母であり、同弘美を唯一人の子として愛育し、特に幼稚園の往復に当っては訴外近藤を付添わせて安全を計っていたのにその幼稚園からの帰途に本件事故の発生を見、幼い原告弘美の前記負傷、治療および後遺症により、父母として受けた精神的苦痛は甚大であり、その苦痛を金銭をもって償うため同原告らが受けるべき慰藉料は各金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

(五)  訴外近藤に関する葬儀費用等の分担費用(原告弘の損害)

訴外近藤は原告弘に家政婦として雇傭されていたもので、原告弘美の幼稚園からの帰途の付添中に本件事故に遭い死亡したものであり、原告弘は使用主として、また原告弘美の父として訴外近藤の葬儀費用等を左記のとおり負担支出したからこれも本件事故により原告弘の蒙った損害である。

(イ)棺代       金五、五〇〇円

(ロ)寝台車代     金四、五〇〇円

(ハ)箱被い代       金五〇〇円

(ニ)葬式費用分担金 金二〇、〇〇〇円

(ホ)香典       金三、〇〇〇円

(ヘ)見舞金    金一二〇、〇〇〇円

合計          金一五三、五〇〇円

(六)  弁護士費用

以上のとおり、本件事故に基き被告らは各自、原告弘美に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円、同弘に対し合計金二、二八八、九九七円、同昭子に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円の損害賠償債務を負っているところ、被告らはこれを任意に履行しないので、原告らはこの請求のため弁護士吉田豊に対し訴訟提起を委任し、原告弘は原告弘美、同昭子分についてはその扶養義務者として、その手数料金二〇〇、〇〇〇円を昭和四〇年三月一二日に同弁護士に支払い、同額の損害を受けた。

五、よって被告らは各自、原告弘美に対し金三、〇〇〇、〇〇〇円、同弘に対し合計金二、四八八、九九七円、同昭子に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、および右金員に対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。

第三被告らの答弁

一、請求原因第一項の事実

(被告四名とも)認める。

二、同第二項の事実

(被告日新梱包、同天野材木店とも)認める。

三、同第三項の事実

(被告江村)本件交差点が交通整理の行なわれていないところであり、駕籠町方面から同交差点に差しかかった場合に交差点左右の見通しがきかないことは認め、その余は争う。

(被告日野)争う。

四、同第四項の事実

(被告日新梱包、同江村)原告弘、同昭子が同弘美の父母であること、同弘美が当時満五才であり、事故後その翌々日まで京北病院で治療を受けたことは認めるが、その余は争う。

本件事故による原告弘美の傷害は昭和四〇年二月初旬に完治している。

(被告天野材木店および同日野)原告弘、同昭子が同弘美の父、母であることは認め、その余は争う。

第四、証拠≪省略≫

理由

一、請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

これによれば被告日新梱包および同天野材木店はそれぞれ被告車甲および同乙の運行供用者として、両車の運行により惹起された本件事故による後記損害を原告らに賠償する責任がある。

二、被告江村、同日野の責任

≪証拠省略≫によると、本件交差点は交通整理が行なわれていないところであり、駕籠町方面および中仙道方面から同交差点に差しかかった場合にはいずれも同交差点の左右の見通しはきかないこと、(被告江村との関係では以上の事実には争いがない。)同交差点で交る各道路の巾員はいずれも七、三米であること、被告江村、同日野はともに同交差点に進入するに際しその手前で徐行して左右の交通の安全を確認する措置をとらなかったことおよびそのために同交差点内で被告車甲と同乙とが接触するに至り本件事故を惹起したことが認められ、これに反する証拠はない。右事実によれば右被告らはいずれも同交差点に進入するより先に一時停止あるいは徐行して交差点左右の交通の安全を確認すべき注意義務があるのにこれを怠った過失があり、これにより本件事故を惹起したものというべく、同被告らは直接の加害者として後記損害を原告らに賠償する責任がある。

三、損害

(一)  原告弘美の治療等に要した費用(原告弘の損害)≪証拠省略≫を綜合すると次の事実が認められる。

原告弘美(当時満五歳)は本件事故により、顔面・両手挫創、歯牙(乳歯)破折、歯槽骨骨折、頭部および全身打撲、右股関節部・外陰部・左大腿両側膝部・左足関節部挫創、骨盤・恥骨皹裂骨折の傷害を受け、事故後直ちに京北病院に入院し、昭和三九年一一月二一日に同原告の父である原告弘(原告弘が同弘美の父であることは当事者間に争いがない。)の経営する小林医院に転院して右傷害の治療を受け、昭和四〇年一月中旬ころまでは病臥の生活を余儀なくされ、特に同月上旬ころまでは前記骨盤等骨折の治療のため腰部にギブスをはめたままであった。そして同年二月上旬ころまでには右傷害の治療は概ね完了したが、この間に右受傷ないしその治療が原因となって気管支炎および後遺症を併発して併せてその治療も受け、右気管支炎および受傷の予後治療は略同年四月末まで継続した。

右の期間、全般的に原告弘および林原百合太医師、歯科につき船橋忠和医師、頭部打撲につき大熊輝雄医師、後遺症につき小倉孝一医師の各診断、治療を受け、原告弘は治療費として一部被告日新梱包が支払ったものを除き、同弘美の扶養義務者として、左記(イ)ないし(ホ)のとおり、治療費、小林医院に病臥中看護のために必要であった付添人の費用および治療のために要したタクシー代を昭和四〇年二月頃までに支払い、また小林医院への入院費および原告弘の治療費は左記(ヘ)の金額相当のものであった。

(イ)  林原医師診察治療費      金一五、二〇〇円

(ロ)  晴和病院(大熊医師)検査料等 金 三、四〇〇円

(ハ)  小倉病院(小倉医師)治療費  金 四、〇〇〇円

(ニ)  付添人費用          金三八、八八〇円

(ホ)  タクシー代          金 四、五四〇円

(ヘ)  小林医院入院治療費

昭和四〇年二月末日まで分        金三〇六、一四〇円

同年三月一日より四月末日まで分      金八四、一五〇円

以上合計                金四五六、三一〇円

以上の認定を左右するに足る証拠はなく、右支払額および小林医院入院治療費は前認定の傷害の程度に照らし相当と認められるから、原告弘は右合計金四五六、三一〇円の損害を蒙ったものというべきである。

他方小倉病院に対する治療費、付添人費用のうち右認定を越える部分の支払および各医師謝礼金として支払った金額は原告弘本人尋問の結果によってはこれを確定し難く、他にこれを認定すべき証拠はない。また≪証拠省略≫によれば、原告弘は幼稚園の先生、園児その他の原告弘美に対する見舞客に対する快気祝および接待の費用ならびに医師に対する謝礼の品代としての金員を支出したことが認められるけれども、これらの支出は本件事故に基き被告らに負担させるべき損害として相当の範囲を越えるものというべきである。

(二)  原告弘美の後遺症につき今後要する費用(原告弘の損害)

前出≪証拠省略≫によると、原告弘美は前認定のとおり治療を受けたものの、なお顔面中央上唇および鼻前庭部に成人しても完全には消失しない挫創痕を残し、また乳歯を破損し、歯槽骨を骨折したために将来永久歯に奇形を生ずるおそれが大きく、これらはいずれも将来女子としての美容上欠点となる可能性があることを認めることができる。しかしながら、右挫創痕も同原告が将来成長するに従ってある程度は変化消散するものと考えられ、整形手術をしても完全に正常に復することはできない反面手術にはある程度の危険を伴うものと考えられるから、右掲証拠によっても、将来その手術をすることが必至であるとは認め難く、また将来永久歯が整形手術を要するほどの奇形として生ずるかどうかあるいはどれだけの費用を要する程度の奇形となるかは右証拠上明らかであるといえない。従ってこれらの事情を慰藉料算定の事情として斟酌する以外に、将来必ず要する治療費であるとしてこれを現在の損害と認めることはできない。

また前出≪証拠省略≫によると原告弘美は既に二度脳波検査を受け、その結果異常がなかったと認められるのであるから、現時点においては頭部打撲による後遺症の危険は一応ないものとみるのほかなく、万一の危険にそなえて今後なお継続的に検査を受けることが保健上好ましいとしても、その検査費用は本件事故に基く損害として相当な範囲内のものということはできない。

(三)、原告弘の得べかりし利益の喪失

原告弘、同昭子各本人尋問の結果によると、原告弘は、原告昭子が当時妊娠中であったことも加わって本件事故のため死亡した訴外近藤および負傷した原告弘美についての事後措置などのため、昭和三九年一一月二〇日から六日間は原告弘の経営する小林医院を休業するのやむなきに至ったことおよび同医院の純利益は一月金一〇〇、〇〇〇円(一日約三、三三三円)を下らないことが認められるが、他方前出≪証拠省略≫によると同月二一日から同月末日までの間原告弘は同弘美を同医院に入院させて治療を施しその入院治療費相当額金一〇四、五六〇円を被告らに請求できることは前示のとおりであるから、同月二一日以後五日間については得べかりし全純益から右入院治療による純益分を差し引いたものが本件事故による損害というべきところ、原告弘本人尋問の結果により認められる当時の同医院の一日の総売上額金一五、〇〇〇円と右一〇日間の原告弘美に対する入院治療費相当額とを対比すると、同月二一日から五日間の減収分は一日金一、〇〇〇円とみるのが相当で、右によれば原告弘は本件事故により合計金八、三三三円の得べかりし利益を失い、同額の損害を受けたものというべきである。

(四)  慰藉料(原告三名の損害)

既に認定したとおり、原告弘美は本件事故による傷害の治療のため、二ヶ月余にわたって病床にあって、そのうち大半は腰部にギブスをはめた不自由な生活を余儀なくされ、この間右傷害ないし治療が原因して気管支炎、難聴症を併発し、結局昭和四〇年四月末まで治療を受け、治癒後も上唇部等の挫創痕を残し、また乳歯破損、歯槽骨骨折により将来永久歯に奇形を生ずるおそれが大きく、これらは容貌の上に永く欠点として残る可能性を有するものであるほか、≪証拠省略≫によると、右の傷害は本件事故直後一両日中は生命の安否も定かでないほどの重傷であったこと、前記骨盤、恥骨皹裂骨折の後遺症として将来妊娠、出産に支障を来たすおそれがあり、この支障の有無はその時に至るまで判明し難いことおよび前記足関節部挫創の後遺症として激しい運動後にはなお左足首に疼痛を覚えることがあることをいずれも認めることができる。以上の事実によれば原告弘美は本件事故のため多大の肉体的精神的苦痛を受け、また将来成長するに従って精神的苦痛を受けるであろうと推測され、この苦痛を償うべき同原告に対する慰藉料として、右事実のほか前示事故の態様等諸般の事情に照らし、金一、〇〇〇、〇〇〇円が相当である。

原告弘、同昭子が同弘美の父、母であることは当事者間に争いがなく、同弘美の右傷害の程度、治療の経過、後遺症に照らすと、本件事故による同原告らの精神的苦痛も並大抵でなく、同原告らもこの苦痛を償うべき固有の慰藉料請求権を有するものと認めるべく、その額は、右事実に本件事故の態様等諸般の事情を勘案して各金一〇〇、〇〇〇円をもって相当と認める。

(五)  訴外近藤に関する葬儀費用等の分担費用(原告弘の損害)

≪証拠省略≫によると、訴外近藤は原告弘に家政婦として雇用されていたものであり、原告弘美の幼稚園からの帰途の付添中に本件事故に遭って死亡したことおよび原告弘は使用者としてまた付添を受けていた原告弘美の父として、昭和三九年一一月一九日頃同訴外人の葬儀に関する費用を左記のとおり支払った(原告弘本人尋問の結果中「同原告が立て替えて支払った」との部分は、同原告と同訴外人との右関係および後に認定のとおり同原告が右のほか見舞金、香典として金一〇万円余を同訴外人の遺族に贈与している事実に鑑み、字義どおり右支払った金額を同訴外人の遺族らに請求する趣旨とは解せられない。)ことが認められ、この支出は、同原告と同訴外人との右関係に照らし社会通念上当然の分担金とみるべきであって、本件事故により同原告が蒙った損害ということができる。

(イ)  棺代       金五、五〇〇円

(ロ)  寝台車代     金四、五〇〇円

(ハ)  箱被い代       金五〇〇円

(ニ)  葬式費用分担金 金二〇、〇〇〇円

合計            金三〇、五〇〇円

また原告弘本人尋問の結果によると、同原告は同訴外人の死亡に関しその遺族に対し香典および見舞金として合計金一〇〇、〇〇〇円以上の金員を贈与したことが認められるが、この支出は同原告と同訴外人との前記関係を考慮してもなお純粋に社交上の贈与にすぎず、(反面からみれば、同訴外人およびその遺族らの損害額から控除さるべき性質のものではない。)本件事故に基き被告らに負担させるべき同原告の損害とみることはできない。

(六)  弁護士費用(原告弘の損害)

以上により、本件事故によって被告らは各自、原告弘美に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、同弘に対し金五九五、一四三円、同昭子に対し金一〇〇、〇〇〇円の各損害賠償債務を負担するものというべきところ、被告らが任意にこれを弁済しなかったことは弁論の全趣旨から明らかであり、≪証拠省略≫によると、この請求のため原告らは弁護士吉田豊に対し訴訟提起を委任し、原告弘は同昭子、同弘美分についてはその扶養義務者として、昭和四〇年三月一二日その手数料金二〇〇、〇〇〇円を支払ったことが認められ、右認容額の合計および事案の難易の程度に照らし、このうち本件事故に基く弁護士費用支払のための損害として被告に負担させるべき金額は金一五〇、〇〇〇円をもって相当と認める。

四、結論

以上のとおりであるから、被告らは各自、原告弘美に対し金一、〇〇〇、〇〇〇円、同弘に対し金七四五、一四三円、同昭子に対し金一〇〇、〇〇〇円およびこれらに対する各損害発生後の遅延損害金として、これら金員のうち原告弘美、同昭子分の全部および同弘分のうち金六六〇、九九三円に対しては、被告日新梱包、同日野は訴状送達の翌日の昭和四〇年四月二二日から、被告天野材木店は同じく訴状送達の翌日の同月二三日から、原告弘分のうちその余の金員に対しては被告日新梱包、同天野材木店、同日野とも損害発生の後とみるべき同年五月一日から、(即ち前第三項(一)の(ヘ)に認定した金額のうち同年三月一日から四月末日まで分の金額については、被告らにおいて同年四月末日限り一括弁済すべきものとして同年五月一日から遅延損害金を付すべきものと解する。)被告江村は右各金員に対して訴状送達の翌日の同年七月一五日から、それぞれ完済に至るまで、年五分の割合による金員を支払う義務があり、結局原告らの本訴請求は右の限度で理由があるから、これらを認容し、その余は失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条、仮執行の宣言につき同法第一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 吉岡進 裁判官 羽生雅則 浜崎恭生)

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